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父の車
父から車を譲り受けて二年。最近ようやく慣れてきた。

学生時代に免許を取ってからと言うもの僕は、オンボロの「商用車」を乗り繋いできた。
燃費がよく、廃材、薪運びに最適、ドロだらけの犬が乗っても気にならない、タダでもらえる事が多い…etc
とにかく僕にとっては実用的で効率の良い車だったのだ。

ところが子供が生まれて状況が変わった。
商用車は大抵後ろの席がベンチのようになっていて、シートベルトが無く、
チャイルドシートが付けられない。
仕方なく助手席に子どもを乗せるも、ディーゼルエンジンの音がうるさすぎて、
子どもが寝付かず、延々と泣き続け目的地に着いた頃には妻も僕もへとへとになってしまっていた。
お気に入りだった商用車にも限界を感じ始めていた。

そんなときに、父から車を譲りうけた。
その車は丁度姉が就職し僕が大学に入学したころに、満を持して10数年ぶりに買い換えた車だった。

元々、車好きだった父。
毎月車の雑誌を読み込んでは、小学生から高校卒業まで僕に新型車のエンジンについて講釈をたれていた。
サラリーマンの父にとって、僕と姉の学費、マンションのローンも残る中、
新しい車は本の中だけの世界だったようだ。
だから父からうれしそうに「車を買ったぞ」と電話が来たときは、「あーよかったな」と心底感じた。
その車は父がずっと憧れていた「VWゴルフ」。外車と言えど決して高級な部類ではなく、本国ドイツではタクシーに使われているような車だ。そんな車を選ぶのも父らしいなと思った。休暇で実家に帰ると、仕事の休みの度に洗車に付き合わされ、夜は必ずドライブで、延々と車の自慢話を聞かされた。

僕がもらったのは、父がそれほど溺愛していた車だった。
譲り受けた当時既に10万キロは超えており、年式もまる七年が経っていたにもかかわらず、中も外も新車と見間違うかのようにきれいに保たれていた。
車はぼろぼろになるまで使い込む生活道具と、とらえていた僕にとって、父の車は正直重荷だった。
新車のようだった車は、程なくして娘が食べ散らかしたパンくずだらけ、犬の泥だらけ…。砂利道、藪道に囲まれている我が家、外装はあっという間に傷だらけ…。
父に申し訳ないなと思いながら、きれいに乗ってるよ!と電話で伝えていた。
ところが、正月に実家に帰省してモノの数ヶ月でドロだらけ、キズだらけになった元愛車を見て父は絶句。帰省する度、
「大切に乗ってきた車をおまえはなんてことするんだ」とちくちく言われ、
こっちもこっちで、
「車ごときのために今の生活を変えるつもりはない!」と突っぱねる、を繰り返すようになった。思えばこんな親子げんか、僕の進路を決める時や、大学卒業後に写真の道に進むと伝えた時以来だ。
何を言われても決して曲げなかった僕に、ある時から父は何も言わなくなり、応援してくれるようになった。

車を譲り受けてから数年。車は相変わらずドロだらけだし、キズも年々増えている。
だけど最近、父はもう何も言わなくなった。

ゴルフ
*写真の中に猫の「おはる」がいます。
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